フランスで行われている燃料税の値上げ反対のデモGilets jaunesについて、日本では「一部のデモ参加者が暴徒化、パリの店舗が壊されている」と、ほとんどのメディアが、観光・治安面に焦点をあて報道している印象を受けました。
遠く離れた日本からフランスを眺めていると「なぜ、デモをしているのか?」「増税に反対する為に、破壊行為をするなんて」と疑問に感じている人も多いかもしれません。
今回のデモは、単に燃料税の値上げに反対しているだけではないんです。マクロンが大統領になってから、様々な政策を進めてきましたが、企業に有利な労働規制の緩和、年金受給年齢の引き上げ、社会保障増税など多くの政策への不満を抱えながら、生活してきた労働者達の怒りが燃料税の増税を”きっかけ”に、一気に噴出したのです。
フランスのテレビのインタビューなどを見ていると、デモの参加者は意外なことに、労働者=移民や貧困層と思わているような人達ばかりではなく、中間層と思われる人たちも多いです。また、デモには参加していないものの、ユーロ経済によるフランス国内の不利益に対して疑問を感じている多くのフランス国民が、デモを支持していると思われます。
一般的に万人に受け入れられる政策は存在しません。どこかで犠牲にならなければいけない部分もあるでしょう。ですが、すべてを甘んじて受け入れるのではなく、しっかり自分たちの主張をするという意味ではデモをするという事は、本来とても素晴らしいことであると私は思うのです。破壊行為は別としてですが。
店舗を壊したり、車を燃やしているのは「壊し屋」呼ばれている人達で、デモの参加者とは切り離して考えてもよいくらい、破壊行為を目的としている人達です。フランス国民も、デモは支持していても、破壊行為については容認していません。
今回のデモは、ソーシャルメディアの呼びかけで参加者が集まっており、指導者がいなく、また届けを出していないデモであり、極右、極左、さらに壊し屋も混じり様々な人達が混在しているのが、今までと違う特徴です。その為、普段デモに慣れているフランス人も、今回は収束が見えず困惑している様子です。
なぜ、こんなにもマクロン大統領へ辞任を要求する声が大きくなったのか「国民の過半数の支持を得て大統領になったのでは?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
フランスの選挙では、第一回投票で過半数を超える候補者がいない場合、得票数の多い候補者二人が第2回目である決戦投票へ持ち越しますが、マクロンの決戦投票の相手が極右政党のマリーヌ・ルペンだったために、彼女に投票をしたくない人達により、マクロンへ票が流れたという側面もありました。
また現体制の「第5共和政」史上、最も棄権・白紙票が多かったため、実際にマクロンを支持して投票したという国民は近年の大統領選と比べると決して多くはなかったのです。
グローバリゼーションが進むにしがって世界的に資産・所得の二極化が問題視されていますが、フランスもまたユーロ経済とのしがらみもあり、さらに状況は複雑で先が見えない状態です。
でも「そんな状況から脱却したい。ただ黙って受け入れている他の国とは違う、我々が先陣を切って行動しなければ!それができるのはフランス人だけだ。」というのがデモに参加している多くの人達の気持ちのようです。
デモが長引くにしたがって「パリに旅行で訪れるのは大丈夫なの?」と不安に感じている人もいるかと思います。平日のパリはいつも通りなので、何も問題はありません。デモは今のところ土曜日のみ、それもパリの一部で行われているので、その他の地域は安全です。デモをやっている場面に出くわしたら、近づかなければ、特に被害にあうことはないと思います。「壊し屋」と呼ばれる人達も、人への暴力行為はしていません。
どこでデモが行われているか、もし旅行でフランス・パリに来る場合は外務省の「たびレジ」に登録しておくと安心です。登録したメールアドレス宛てに、随時パリのデモなどについて知らせてくれます。私は在仏日本大使館に在留届を出しているので、この緊急のメールが自動的に届くのですが特にパリでのテロ事件以降、フランスに旅行に来る方には、ぜひ知って登録して欲しい制度です。